memo

書いたり書かなかったり

2024年8月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

アイリーノベルさんから【失恋して絶倫ホテル王のセフレになりました~一夜からはじまる蜜愛関係~】が配信始まりました!

レーベル作品紹介ページ
試し読みありなのでぜひ~

あらすじ===
「――きみは綺麗だよ。なにを着ても、着てなくても」
婚約間近の恋人に裏切られ何もかもを失った麻実は高級ホテルグループの代表・彰吾のセフレとなった。『次の男を悦ばせるために、その方法を学びたい』利害一致による期間限定の関係だが、彼の欲望は絶えず彼女に鮮烈な快感を与え、元より二人で一つの体だったかのように不思議なほどしっくりとくる。彰吾と会うのは週末の二日間だけ。真剣な愛情はルール違反、後腐れなく別れなくてはいけない――でもいつからか引き返せないほど強く愛してしまって……。「あなたが、欲しい」甘美な夜を幾度も共にしながら愛に溺れるドラマチックラブ!
=======

キーワードが「絶倫」「セフレ」だったので、いつもよりえろが多めになっています。
あちこち連れて行けるし見栄えのある舞台が用意できそうだったのでホテル王にしました。あと単純に豪華なホテルを使いたかったので、その辺も都合がよかったですね。

リリースが夏近くになるのでどうせならリゾート地、南国あたりにも連れ出したいな~と思っていたんですが、以前からなんとなくあの海を使いたいなと考えていたのでいい機会でした。ネタバレになるのであんまり書けないですが、読んでいてロマンチックなイメージができていたらいいなあと思います。

キャラ的には面倒くさいメンタルだけど平素は穏やかで余裕のある年上が好きなので、そんな感じのヒーローです。

当時韓国俳優にはまっていたので外見モデルをそちらに設定しました。落ち着きつつも色気のある30代ということで、イラストレーターの逆月酒乱さまにこれ以上ないくらい素敵なヒーローをデザインしていただきました。

配信から一日経ちましたので、大抵の書籍サイトでは配信始まっています。よろしくお願いします~。


そしてそして、意外と真面目に毎日ちゃんと更新しているムーンライトノベルズさんで公開中の【ぼくのマリちゃん 】ですが、そろそろ終わりに向かい始めます。そろそろ余裕も出てきたので、完結し終わったらおまけでもつけてkindleのほうにも流そうかなと思っているところです。

普段は全体的な尺を気にしながら話を進行するので、たまにはこういういつまで続けてもいいような場所に身を置くといいですね。もっと長編で込み入りまくった話を書いてみるのもいいかもなと思いました。あとセオリーガン無視とか。商業では難しいと思ってボツったネタがいくつかあるので、他の進行予定のものが終わったら考えてみてもいいかもしれませんネ。

#memo #TL

編集

2024年7月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

行き場を失ったTL原稿を「ムーンライトノベルズ」さんのほうで公開しはじめました。

ぼくのマリちゃん ~若手中華俳優は幼なじみに執着する~

あらすじ====
日真梨は十四年ぶりに幼なじみの博文と再会するのを楽しみにしていた。小学生のころ近所に住んでいた博文は急に海外に引っ越してしまい、別れの言葉すら言えなかったことがずっと引っかかっていたからだ。成長した幼なじみとの対面に不安と緊張を覚えつつ、約束の場所に向かうとそこにいたのは近年注目されている中華俳優だった。仕事と休暇でしばらくはこちらで過ごすと話す彼に最初は戸惑う日真梨だったが、ストーカーに狙われたことをきっかけに博文とともに生活することになる。
========

執着系幼馴染のお話です。
執着愛、偏愛、幼馴染、溺愛などでピンときたらぜひ読んでみてくださいな。

毎日19~21時ごろに更新する予定です。
あまり使わないサイトなのでシステムがちょいちょい難しいですね。様式が異なっていたらすみません。

#memo #TL

編集

2024年6月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

【BL】やがて死に至る愛

(キャプション自動取得対象外)

個人レーベルからBL小説【やがて死に至る愛】が配信はじまりました。
以前別名義で投稿していたもので、選考期間中はpixivで「毒花の獣」というタイトルで公開していたものとほぼ同一内容になります。
いつも通りkindle限定、アンリミ対象なのでよろしくどうぞ。
アンリミでは過去のBL作が対象になっていないので、そこらへんの入り口にどうかなと思って配信しました。

Kindle配信

あらすじ=====
四ヶ月前にパートナーの支配者を失った千慧は、ある日知り合いのクラブに呼び出され、同じくパートナーを失ったアイザックというイングランド人を紹介される。一見して優しい雰囲気のアイザックに落胆する千慧だったが、プレイしてみるとすぐに断るには惜しいものを感じ、考える時間をくれるよう頼む。
あるとき千慧は以前遊んでいた男に待ち伏せされ襲われる。偶然駆けつけたアイザックが助けに入り、彼は一晩中千慧を介抱してくれた。翌日、初めて見せる彼の支配的な姿に心揺さぶられ、千慧は一ヶ月のお試し期間を承諾するが……。
=============
イラスト:奥結ナグ(@tab0v0


以前読んだことがあればご存じかもしれませんがD/sものです。暴力表現が多いので苦手な方はご注意ください。
過去わたしのBLを読んだことがあればいつも通りの感じです。
お好みにあえばよろしくお願いします~。


以下試し読み




0、

「俺を見ろ」
 冷たい声だった。
 腰を掴む手のひらは熱く、深々と貫いたそれは灼熱のようだ。
 なのに、不思議なほど静かな声。
 まるで貫いている相手と話している相手は別人のように感じる。
 声を聞いた途端、全身に電流が走り、言葉がそのまま鎖となって体中を縛りつけた。つま先も、指先も、彼の許可なしには呼吸さえ許されないような気がした。
 しかしそれは裏切りだった。
 自分を所有する男への、紛れもない裏切り。
 だから、意識を別のところへ仕舞い隠そうとした。誰も侵入できない心の奥底に。
 容赦なく打ちつけてくる腰に、肉を掻き分ける欲望に、息を荒げて意識が朦朧とする。
 次の瞬間、破裂音とともに頬が焼けるように熱くなり、目の前に火花が散った。
 一度。二度。
 頬を打った大きな手はそのまま顎を掴み、己のほうへと強制的に向かせる。
「俺を見ろ」
 厳しい声に切迫したものが混じる。不思議な恍惚感を与えた。
 胸がうずく。
 眼球を動かして、彼の命令に従う。
 暗い暗い闇の向こう、鋼のように冷たい瞳がこちらを見つめていた。




1、

 六本木の裏路地にある窓一つない巨大な黒い箱のような建物は、三階建てくらいの高さがあるにもかかわらず、ともすればそこにあることすら気づかれないような存在だ。その周囲は、高さ二メートルはありそうな鉄製の塀が取り囲み、一見すると工事中にも見える無愛想な装いを創業当時から貫いている。
『クラブ リベラティオ』――表向きは審査の厳しい会員制クラブだが、その実態はオーナーと同じ嗜好を持つ者たちの社交の場だ。しかし招かれるものには一定の基準があるので、会員制クラブと言っても間違いではないけれど。
「久しぶりだね、千慧《ちさと》くん。さあ、入って」
 オーナーの磯崎《いけざき》はそう言って開店前のクラブのなかへ通した。
 あっさりした外装に反して、内部はひどく豪奢だ。地上三階、地下に一階ある大きな屋敷はどこもかしこもヴィクトリアン様式で統一されている。玄関ホールの天井は三階まで吹き抜けになっていて、大きなクリスタルのシャンデリアが輝いていた。床には深紅の絨毯が敷かれ、ホールの中央に置かれた円柱のテーブルには月下美人が静かに来客者を歓迎する。大きな葉の合間から重たげな蕾が五つ、メデューサの髪のように曲がりくねってぶら下がっていた。今夜あたり花開くのかもしれない。
 古い洋館をまるまる持ってきたかのような様相。ここに来るたびに千慧は十九世紀のイギリスにタイムスリップしたような心地になる。
「お久しぶりです」
 磯崎はいつも通り品のいい笑みを浮かべ、握手を交わした。
 上質なスーツに身を包み、黒髪を後ろになでつけた長身細身の男。五十代後半で本業は飲食関係の会社経営だったと思うが、その佇まいはどこか高級ホテルの支配人のような雰囲気があった。
 千慧が彼の周囲にさっと目を向けると、磯崎は軽く首を逸らし視線だけを天井に向けた。
「アレはいま上で新しい椅子を試していてね」
 意味深に笑う彼に、千慧は「ああ」と頷いた。三階は彼とパートナーの居住スペースだ。
「もしかして仕事の合間だったかな。日曜は休みかと思っていたが」
 磯崎が千慧のスーツに目を留める。
「午前中少し出勤してたので。でもこのあとは大丈夫です」
 千慧も彼と同じくスーツ姿だ。だがその値段には天と地ほどの差があるだろう。
 お盆が過ぎたといっても日中はまだまだ蒸し暑く、外を歩いてきた千慧は上着を手に持ち、シャツの袖もまくっていた。ネクタイは少し緩めて第一ボタンも開けている。だがクラブのなかは肌寒いほど冷房がきいているので、またすぐ必要になるかもしれない。
 磯崎は「それはよかった」とつぶやいて歩き出した。千慧も後ろからついていく。
 廊下の両サイドにはいくつもの部屋が並ぶ。そのほとんどの部屋は扉がなく開放的なつくりになっていた。窓一つない建物だが、あちこちに設置されたランプによって常に十分すぎるほど光に満ちている。
「急に呼んで悪かったね」
 磯崎は少しも振り返らず話しかけた。彼から連絡があったのは三日前だ。
「いえ、そろそろ顔を出そうかと思ってましたから。しばらくご無沙汰していて、すみません」
「いやいや、いいんだ。あんなことがあったんだから仕方ない」
 千慧は静かに苦笑いを浮かべた。
「あれからもう四ヶ月か。最近はどうだい」
「まあ、それなりにやってます」
「パートナーは見つかったかい? きみなら引く手数多だろう」
「そこまででは」
「謙遜することはない。うちの会員でも何人かが声をかけたと言っていたよ。誰一人きみの新しい〝ご主人さま〟にはなれなかったようだがね」
 さすが、社交場のオーナー。情報通だ。千慧は曖昧に笑って肩をすくめる。
「なかなかうまくいかなくて」
「そうか。まあそうだろうな。いま幾つだったか」
「今年二十五です」
「色々試したい盛りだろう。だが、無茶はほどほどにね」
「……ええ」
 含みのある口調に、千慧は苦笑いを噛み殺した。
 案内されたのは図書室だった。クラブのなかでは数少ない扉のある部屋だ。
「でも意欲的にやっているようで安心したよ。電話でも話した通り、今日は紹介したい人がいてね。すぐに来ると思うよ。僕の紹介だからと気負わなくていい」
 無茶なことを言う。有力者たちが集まる秘密クラブのオーナーだ。かたや平凡なサラリーマンの自分では、本人にその気がなくとも彼の言動には注意を払わざるを得ない。
 千慧はそんな思いを顔には出さず頷いた。
「会ったことがある人ですか?」
「どうだったかな。向こうは知ってるみたいだけど。実は彼も……ああ、すまない。ちょっとここで待っていてくれ」
 言いかけたところで、磯崎のスマートフォンが鳴った。部屋を出て行くオーナーを見送り、千慧はちいさくため息をついた。知らず肩に張っていた力が抜ける。
〝実は彼も〟――? なんだろう。
 言いかけた言葉が少し気になったがどうせすぐにわかることだ。会ったことがあるかどうかも、これから直接会えばはっきりするだろう。切り替えてそばにあった椅子の足元に鞄を置き、背もたれに上着をかける。内ポケットに入れていたスマートフォンが震え、確認するとメッセージの通知だった。
 ――『次いつヤる? S』
 先ほど磯崎に言われた意味深な言葉が蘇る。彼は気づいているのだろうか?
 別に磯崎とは赤の他人なのだから、ここ以外での千慧の行動を知られてもどうということはないが、なんとなくばつの悪い思いがした。
 無表情に画面を眺め、返信せずにポケットに戻す。
 図書室はドアのある一面の両サイドの壁は天井まで届く本棚が並び、奥の壁には大きなマントルピースが置かれていた。手前には重厚な書斎机が置いてあり、その前には深紅の革張りのソファがひとつ。向かいには一人がけの肘かけ椅子が三つ等間隔に置いてあり、合間にはちいさなテーブルが配置されている。千慧のような一介の会社員が通される部屋としてはいささか華美で豪華すぎる内装だ。
 つまり、これから紹介されるお相手は磯崎にとってそれほど重要な人物ということか。
 この敷地内ではメンバーとその連れのほか、常に二種類の人間に分けられる――支配者と服従者。主人と奴隷。
 以前ここに来ていたときの千慧の役割は服従者だった。
 けれど、いまの千慧には管理する主人がいない。ここのメンバーであり、前の主人だった黒田が四ヶ月前に亡くなったからだ。
 最初にその知らせを千慧に告げたのは磯崎だった。瞬間、連絡を受けたあの平日の朝に心が引き戻される。そのとき頭のなかを駆けめぐったあらゆる感情も一緒に。
 嫌な記憶だ。
 千慧はかぶりを振る。
 もう終わったことだ。考えるな。
 それよりこれからのことに目を向けるべきだ。これから会う相手が磯崎にとって重要人物なら、きっとかなりの権力者に違いない。千慧の性的指向知っている磯崎なら、紹介相手は男で間違いないだろうが。
 いったいどんな人だろう。でっぷり太った中年男性であるとか、神経質な年寄りであるとか? 想像するとさらに気が滅入った。
 やはり断るべきだったかもしれない。
 だが今更だ。適当に付き合って早く帰ろう。
 いい加減待つのも飽きてきた。これ以上余計なところに考えが向かう前に、どこでもいいから意識を別の場所に逃がしたくて、オーナーの趣味で統一された蔵書の数々を眺める。何気なく目に止まった本を手にとって開くと、古い紙の匂いがした。

 どれほど経ったのか。
 五分か、十分か。もしくはほんの二、三分くらいのものだったかもしれない。
 気づけば、磯崎が開け放ったままの扉のほうから人の気配がした。
 磯崎ならすぐ千慧に声をかけるだろう。ならば噂の、紹介したい人物その人か。
 それなら、と千慧はあえて顔をあげることも意識を向けることもしなかった。気づいている素振りも関心のある様子も一切見せずに、ただページをめくり、並んだ文字を読むともなしに視線を走らせる。
 しかし部屋に入ってきた人物がゆっくりと図書室のなかを歩くのを、千慧ははっきり感じていた。
 見られている――シャツの襟から覗く、千慧の白く細いうなじにうっすら浮かぶ汗を、濡れ羽色の髪が覆う形のいい後頭部を、男のわりに細い腰を、薄い胸板を、袖をまくった先から伸びる骨張った腕を。まるで炎が意思を持って揺らめき、体中を舐めるように、皮膚が遠慮ない視線に晒されて強張るのを感じた。
 その人物が背後から徐々にこちらに近づいてくる足音を耳にしながら、千慧は妙な緊張感を抱えたままじっと立ちすくんでいた。
 まるで獰猛な猛獣の檻に投げ込まれた憐れな生き餌のような心地だ。知らず呼吸を抑えようとして、逆に胸が大きく上下した。
 ふと、目の前の本に影が落ちる。
「〝わたしのなかに存在する男を打ち砕いてこそ、わたしは解放される〟――ふうん。なかなかいいチョイスだ」
 想像していたより若い声が頭上から響いた。柔らかく、穏やかで耳心地のいい低声。
 振り返る。途端、千慧は目を見開いた。
 彼の顔が思ったより近くにあったこと。その体が思ったよりも大きかったこと。何より日本人離れした彫りの深い顔立ちに驚いていた。想像していた相手とはまるで違う。ライオンのたてがみのように輝く黄金の髪と、長いまつげの下からこちらを見つめる瞳の美しさに目が釘付けになった。
 けぶる灰青色の目は冬の早朝に見る空の色のように澄んでいて、いままで見たことがないほど綺麗だ。
 彼はいったい誰だ……?
 視線を交わした瞬間、千慧は彼に不思議な親密さを感じた。
 どう見ても初対面の相手だ。こんな派手な容貌は一度見たら忘れない。なのに、どうしてだろう。さっきまで感じていた肌が強張るほどの緊張感はすっかり姿を消し、まるでむかしからの親しい友人のような、昨日も会っていた気易い仲のような親しみを覚える。
 同時に心臓は大きく跳ねていた。ドッドッと大きく鼓動して、体中から汗が噴き出し、息苦しささえ感じる。
 これは恐れか、期待か、それとも興奮か。
 わからない。
 ただ目が離せず、胸が高鳴る音を聞いていた。
「やあ、待たせたね」
 磯崎の声で、千慧はハッと我に返る。
 初対面の男に見惚れていた――その事実に狼狽え、反射的に一歩退くと肩が本棚にぶつかった。ガタン、と大きな音を立て、反動で手にしていた本が滑り落ちそうになる。
「おっと……危ない」
 すんでのところで男が本をキャッチした。
 咄嗟に腕を伸ばしたことで、彼の右手は千慧の腰に触れ、もう一方は本を掴んでいた。シャツ越し、背中や腕に感じる彼の逞しい肉体の気配に、千慧は頬が熱くなる。
 急いで視線を逸らした。
 この男を見るのは危険だ――本能がささやく。
「すみません」
 やけに喉がカラカラで、声がかすれた。
 彼は口元だけに笑みを浮かべると、その本を元あった棚に戻した。目の前に伸びる腕の高さからも、彼が千慧より十センチ近く高いことがわかる。ふとスパイシーなムスクの香りが鼻をついた。何の香水だろう。心拍数を上げ、脳に直接作用するような、ひどく官能的な匂いだ。
 男が一歩右側にずれると視界が開け、奥に立つ磯崎と目が合う。
「もう自己紹介はすませたかな。こちらはミスター・アイザック・ヘイグ。彼のほうはご存じだね。形谷千慧くんだ」
 見た目を裏切らない横文字の名前に千慧はわずかに戸惑った。英語は苦手だ。他の国の言葉はもっとわからない。それを察したように磯崎は言葉を続けた。
「ミスター・ヘイグはこちらに来て長いから日本語は流暢でいらっしゃる。そこは心配しなくていいよ」
「よろしく、千慧」
「よろしくお願いします」
 いきなりファーストネームを呼び捨てにされるのはひどく落ち着かなかったが、その戸惑いを顔に出さず、差し出された手を握った。包み込むような大きな手だ。同じ男なのにこうも違うのかと驚くほど、骨格も筋肉も何もかもが別の生き物のように思えた。
 そこで顔を上げて、ようやくきちんと男を見る。なるほど、外国の人だ。彫りが深く目鼻立ちの整った顔の下には太い首と広い肩幅、分厚い胸筋がはっきりとわかる。ダークネイビーのスーツは目の色ともよくあい、体格のよさを存分に見せつけていた。高級男性誌の広告から抜け出してきたかのようだ。皺一つないスーツにシャツ、首元までしっかり締めたネクタイはどこにも隙がない。
 姿勢がいい大きな体躯はどうしたって威圧的に見えるけれど、柔和で品のいい笑みのおかげで幾分怖さが緩和していた。やや癖毛のブロンドの髪は綺麗に横に流してあり、全身から紳士らしい慎み深さが感じられる。歳は三十歳前後だろう。
 本当に、文句なしにいい男だ。
 たとえば彼が職場の取引先の相手や上司であったぶんには、千慧は好感を抱いただろう。全身から漲る寛大さと、理知的で快活な目はいかにも仕事ができそうだ。だがここでは、かすかな落胆を抱かずにはいられなかった。
 外国人だからじゃない。彼が、あまりにも優しそうだったからだ。
「ミスター・ヘイグは前のパートナーだった奥さんを亡くしてね、半年ほど前からうちのクラブに出入りするようになったんだ」
 なるほど、彼もパートナーを喪っていたのか。さっき磯崎が言いかけたのは間違いなくこのことだろう。
 それに半年ほど前からの出入りなら千慧が知らなくても不思議じゃない。ここ半年、千慧は周囲に目を向ける余裕がなかった。千慧も――それに黒田も。頭によぎる過去の記憶を急いで追い払う。それにしても。
「奥さんが元パートナー?」
 思わず口をついて出た言葉に、アイザックは気分を害した様子もなく頷いた。
「そうだ。意外かな?」
 千慧は少し考えてから「いいえ」とつぶやいた。
 夫婦がパートナーであることは珍しくない。意外だったのは、異性とも関係を持てる相手を紹介されたことについてだ。千慧はこれまで同じ性的指向の相手としか関係してこなかった――つまり同性愛者。だから前パートナーが女性と聞いて驚いたのだ。というより、彼がバイということにか。考えてみればありえない話ではないのに、不思議といまのいままでそんな可能性に思い至らなかった。
 彼がバイ? 本当に?
 正直、信じられない。
 この男から漂う色気は自分と似たものであると直感が告げていた。でも結婚していたなら、たとえそう見えなくても事実はそうなんだろう。
 けれど、それはそれほど重要か?
 この男の性的指向なんて何でもいいじゃないか。ゲイでもバイでもヘテロでも。彼が望むものを与えてくれるならそんなことは重要じゃないはずだ。
 そう気づいて落ち着きを取り戻す。
 磯崎は「あとは好きに使ってくれ」と告げて部屋を出て行った。今回は扉を閉めて行く。それが何を意味しているか千慧はよくわかっていた――この男は、わかってるのだろうか?
 ちらりと視線をやると、二人がけのソファに腰を下ろしたアイザックは肘かけに片腕を置き、脚を組んでひどくリラックスした様子だった。やたら上機嫌にニコニコと千慧を眺めている。
「話すのに私の許可が必要かい?」
「いえ」
 彼は頷くと、ソファの空いたスペースを軽く指先で二回叩いた。
「せっかくだし、少し座って話そう」
 千慧は黙って従った。彼の隣に腰を下ろして膝の上で両手の指を組み、顔をアイザックのほうに向ける。
 この男と二人きりだと思うと妙に落ち着かない。特別人見知りでもないのに、いまはやけに緊張して言葉に迷っている。それでも必死に視線を逸らさないよう意識して見つめる。彼は口の端を少し上げた。
「聞きたいことはあるかい」
 少しの間を置いて千慧は頷く。
「おいくつですか?」
「三十二歳だ」
 思っていたより年を取っていた。それでも黒田よりは若い。黒田は三十七歳だった。
「きみは?」
「二十五です」
 アイザックは頷く。その目が語っていた――きみの番。
「奥さんはいつお亡くなりに?」
「五年前」
 千慧はわずかに狼狽えた。
 そんなに前?
「それは……」
 言葉を続けていいものかわからず、声は尻すぼみに途切れた。変なことを口走って傷口に塩をぬるようなことはしたくない。
 アイザックはそんな千慧をおかしそうに眺めて、ちいさく笑った。
「かなり前のことだろう? わかるよ。驚いて当然だ」
「ええ……」
 それからいままで誰ともパートナーにならなかったのだろうか? こういったパートナーでなくとも、恋人や、気安い関係の相手は?
 彼の恵まれた容姿や体躯だけ見ても、あらゆる男女が列をなしそうなものなのに。元パートナーの死から立ち直るのに時間がかかったのか。もしくは、何か訳ありなのか。
 たった四ヶ月で新しい相手を探し歩いている自分がひどいろくでなしに思えた。
「私が怖いかい?」
 怖い?
 たしかに落ち着かないし、緊張する。でもこれは恐怖なのだろうか。よくわからない。アイザックは物腰だけで見れば穏やかで静かだ。ただそこにいるだけで胃が縮みあがるような威圧感を垂れ流していた黒田とは真逆に思える。でも千慧の体や本能は、そんな黒田にすらなかったような反応を見せている。胸がさざ波立って仕方ない。視線が合うと逸らしたくなる。
 これは恐怖か? それとも別の感情か?
 考えた末、千慧は正直に首をかしげた。
「わかりません」
 俺の番だ。何を聞こう。
 視線を向けると、綺麗なアイスブルーの瞳と目が合った。澄んだ色。寒色なのに不思議と冷たい印象はなく、和やかな表情だ。
「あなたは本当に……支配者《ドミナント》?」
 気づいたときにはそう訊ねていた。
 彼は驚いたように眉をあげ、次の瞬間には吹き出した。耳心地のいい笑い声だ。笑顔は甘く、少し幼く見せ、つられて笑いたくなるような雰囲気があった。
「ああ。そう見えない? そういうきみも、聞いていたよりは従順さ《サブミッシブ》に欠けていると思うけどね」
 くすんだ薄青の瞳がほのかに暗さを帯びる。どきりとした。でもそれは一瞬のことで、すぐ柔和に細められる。
「お互いまだなんの役割もないもの同士、気軽にいこうじゃないか」
「……はい」
「この辺りに住んでいるのかい?」
「ええ。ここから電車で十五分くらいのところに」
 先ほど相手の出方をうかがったことを指摘されてばつが悪かった。気まずさを振り払うように居住まいを正して咳払いをひとつする。少しお行儀よくしていたほうがいいかもしれない。
「ミスター・ヘイグ」
「アイザック、と」
 表情こそ穏やかなものだったが、その声には強制力があった。
 役割のないもの同士、と言いながらも彼の支配欲が垣間見えた気がして、千慧はふたたびあの肌を舐られるような緊張感を覚える。
「アイザック。生まれはどちらで?」
「イングランドだ。こちらに来たのは十年ほど前になるかな。仕事の都合でいまもあちこち行くことがある。主にヨーロッパ諸国。行ったことはある?」
「いいえ、どこにも。国外に出たことはありません」
「行きたい?」
「それは……まあ、機会があれば」
「それはよかった」
 よかった? その返事に疑問を覚えるが、アイザックはそれ以上そのことについて話すつもりはなさそうに、ただ意味深な笑みを浮かべた。
「私からも聞いていいかな」
「どうぞ」
「きみも最近パートナーを喪ったって?」
「ええ」
「聞かせてくれ。可能な範囲で構わない」
 何を話せばいいのだろう。千慧は少しのあいだ首をかしげて頷いた。
「二年間パートナーだった人が四ヶ月前に亡くなりました」
「彼は……ミスター黒田と言ったかな。ここでは有名だったそうだね」
「知り合いの多くがここのメンバーですから」
 黒田。有名チェーン店の社長であり千慧の元支配者。
 権力者ばかりが名を連ねる秘密クラブは、平凡な会社員の自分ではどうしたってツテがない。元々クラブの存在すら知らなかったが、幸いにも――と言うべきか――出会い系アプリを通じて知り合った黒田によって知る機会に恵まれた。このクラブも、黒田の同伴者として訪れたのが最初だ。それまで千慧はこんな関係性があることすら知らなかった。
 支配者と服従者。自分の役割。それによって得られる快楽。何もかも黒田が教えてくれた。
 だがもういない。
 いまの千慧は、まるで持ち主のいない風船のようだった。ふわふわと風にあおられ、心許なく空を漂う。だが風船には持ち主が必要だ。いつか萎むか割れるかする前に、存分に楽しませてくれる持ち主が。
「彼のことがまだ忘れられない?」
 まっすぐで真剣さを帯びた視線と目が合う。その問いに、千慧はついちいさく笑ってしまった。
「俺たちはそういう関係では」
「じゃあどういう関係?」
「ただ……ちょうどよかった。お互いにとって」
 して欲しいこと。したくないこと。その境界線をよく理解していた。限度を理解していた。千慧にとっては重要なポイントだ。
 黒田と千慧の関係は恋人同士と言うより友人のような仲だった。この場所での主人と奴隷ごっこを楽しみ、軽いSMプレイを楽しむだけの関係。セックスフレンドだ――少なくとも、千慧はそう思っていた。
 恋人のようにキスもセックスもするし、お互いの家を行き来するけれど、決して恋人同士ではない。なる気もなかった。
 だが秘密クラブの客のなかには、アイザックと元妻のように夫婦関係のパートナーもいる。だから彼が黒田と千慧の関係を読み違えても無理はない。
 アイザックはふうんとため息をついて背もたれに身を預けた。視線は千慧から外さず、無遠慮なほどじっと見つめる。まるでこちらの真意を探るようだ。もしくは、{黒田|前の主人}に対する忠誠度をはかっているのか。
「これまで何人に声をかけられた?」
「七人」
 このクラブに出入りしている者に限って言えば、という言葉を省略した。
「その誰も〝ちょうどよく〟はなかった?」
「じゃじゃ馬なもので」
 聞き慣れない言葉だったのか、アイザックがかすかに眉を寄せる。
「ええっと、わがままで扱いづらい、みたいな」
「ああ、なるほど。ふうん……それは、誰かとパートナーになることを、彼に悪いと思ってるからではないんだね? ミスター黒田に対して」
 居心地の悪い話題だ。千慧は肩をすくめた。
「別に、黒田さんに対して申し訳ないとかそういう気持ちはないです。単純にただ相性が合わなかっただけで」
「本当に? 無理はさせたくない。いい結果を生まないからね。きみの正直な気持ちが知りたいんだ」
 そのとき初めて、この男が気にしているのは黒田に対する忠誠心などよりも千慧のいまの心境なのだと気がついた。
 驚きと同時に、胸に広がるのは確信めいた落胆だった。
 ああ、やっぱり、彼は優しすぎる。そんな気遣い無用なのに。
 黒々とした大きな目と長い睫毛、ふっくらした唇に細い顎といった中性的な顔立ちと、筋肉も脂肪もつきにくい体。百六十八センチの身長と日焼けしても赤くなるだけの青白い肌が相まって、千慧は二十五歳の男としては一見弱々しく映る。
 だが実際のところ、どんなに儚げに見えようと中身は年相応の成人男子だ。人並みに図太く、欲深く、快楽に弱く、探究心に満ちているが、関心のないことにはどこまでもドライになれる。見た目ほど柔らかな存在ではないのだ。
 千慧はかすかな嘲笑を浮かべて首を振った。
「多分あなたが思うより俺は冷たい人間ですよ」
「それはいいね」
 それは、どういう意味だろう。
 またしても、彼の表情には意味深な笑みが浮かんでいた。
 戸惑いを抑えて、千慧は話題を変える。
「パートナーを探しているとか」
「ああ。いまは決まった相手がいなくてね。きみもそうだろう?」
「ええ。でも……俺はその、そこまでの関係は望んでいなくて」
「というと?」
「パートナー証明するような」
 アイザックは数秒間を置いて「ああ」と穏やかに頷いた。
「私の前のパートナーが妻だからね。なるほど」
「俺は正直、そこまでの関係にはなれないと思います。黒田さんともそういう関係ではなかったし」
 こんなことを言えば、紹介者の磯崎の顔に泥を塗ることになるかもしれない。でも最初からできることとできないことを明確にすることは重要だ。二人が望んでいるものを思えばこそ。
 怒り出すか、落胆するものと思いきや、アイザックは鷹揚に微笑んだ。
「愛情や敬意は出会ってすぐに生まれるものではないしね。けれど……それははたして、意識してどうにかなるものなのかな」
 それは独り言のように、ひどくちいさなつぶやきだった。千慧の胸の奥に、いいようのない不安感を残す。
 それはいったい、どういう意味だ?
「きみの意思はわかった。ひとまず覚えておこう。他に何かあるかな?」
 アイザックの表情は真剣そのもので、答えは淡々としていて、まるで面接試験のようだ。けれど当然なのかもしれない。これは試験だ。お互いにとって望ましい相手かどうかを知る試験。しかし千慧が求めているものはもっと単純だ。
 千慧はひとつため息をつくとアイザックを見た。
「そろそろ、話すよりもしませんか?」
 アイザックは何を、とは聞かず、口元に大きな弧を描いた。
「意外とせっかちだな」
「そのほうがわかることは多いでしょう?」
「そんなに尻を叩かれたいのか? 仕方ない子だ」
 品のいい口から放たれる直接的な言葉に、千慧は知らず胸を高鳴らせた。そっと肘かけに置かれた左手を盗み見る。
 千慧の頭など易々と覆えそうな大きな手。指は長く節くれ立って、どの指にも指輪はしていない。けれど左手薬指に、ちいさな指輪の跡があるのは見逃さなかった。
 ふうん。こちらを気遣っているふりをして、新しい相手と組む気になれないのはそっちなんじゃないか?
 千慧がどこか非難めいた視線をそっと逸らすと、アイザックが笑ったような気配がした。彼は静かに立ち上がると、扉のほうに向かう。
「NG行為は?」
「スカトロ、一年以上残る傷をつける行為」
「セーフワードは?」
「ベーシックに、レッドとイエローで」
「わかった。今日は使わないと思うがね。それでは、はじめようか」
 扉の鍵をかけると、アイザックが振り返る。その表情には、先ほどまであった柔らかさが消えていた。
 笑みは浮かべている。けれど目は鋭く、冷ややかだ。
 それまで漂っていた穏やかな雰囲気は綺麗に消え、いまはどこか威圧的。まるで静かな肉食獣と対峙しているような心地で、そんな変化に千慧はどきりとする。
 アイザックは千慧の手を取って部屋の中央に立たせると、自分だけソファへ戻って腰を下ろした。
「服を脱ぎなさい、千慧」



↓続きは本編でお楽しみください↓

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#BL

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【健全】今日から俺に恋してください。

(キャプション自動取得対象外)

掲載先の小説部門終了してそのままになっていた女体化ファンタジーラブコメです。問い合わせが多かったのでセルフで出すことにしました。配信先はkindleとboothです。
KindleではいつもどおりKindle Unlimited対象です。どうぞサブスク登録している方はアンリミで読んでください。

あらすじ===
普通の男子大学生だったユーリは事故に遭い、気付いたらロマンス小説のなかで目を覚ます。なぜか女の子の姿になっていて目の前にはヒーローが。前日偶然読んだばかりのロマンス小説のなかに迷い込んでしまったらしい。恋に落ちてハッピーエンドを迎えれば元の世界に戻れるのでは? 現実世界に戻るため、ユーリはヒロインになりきることにしたけれど……。
TS全年齢向けラブコメ
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booth(PDF&epubデータ)

イラスト/奥結ナグ(@tab0v0
名義が変わっていますがイラストは前回のセルフと同じ、そして四年前に表紙を描いたのと同じ方です。
kindleに登録するにあたって画像サイズが合わなかったのでおニューになりました。可愛くなってハッピーです。

2020年~21年と一年のみの掲載でしたが、読み直してみるといろいろ当時を思い出しました。エロのない小説を書くのが初めて?二度目?とかだったので、困惑していたのが思い出されます。思ったよりは壊滅的な内容ではなかったので最低限推敲だけしています。ヒロインのメンタルが男の子なのでいつもよりも正直でやんちゃな子になっています。

TSだとTLにしていいのかBLなのか、置き場に迷いますね。これもひとつのエンタメとしてお楽しみいただければ幸いです。

#TL

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2024年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

アイリーノベルさんから【嘘つきは結婚のはじまり~完璧御曹司は孤独な元部下をもう二度と手放さない~】が本日より配信しました🎊
今年はじめての配信です。よろしくお願いします。

作品ページ

ウエディングプランナーのヒロインはかつて上司だったヒーローと再会。7週間を一緒に過ごすことになり…というお話。
職業ものは色々と調べることが多くて楽しいですね。

#TL

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2024年3月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

手が限界を迎え、分割キーボードを買おうかと色々探した結果、最終的にハンドマッサージャーを買っていました。とてもいい…もっと早く買えばよかったです。

さて、昨日仕事がひと段落ついたのでこれからちょびっと次の仕事までの間に投稿原稿を書こうと思います。楽しみだな~

#memo

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